おうちでホワイトアスパラガス

久しぶりにホワイトアスパラガスを買った。
渋谷で店をやっていた時は、春になると必ず仕入れてメニューに載せていた。
ホワイトアスパラって山菜みたいなもので、まさに季節の風物詩として長年扱っていた。
店を閉めてからは一度も手を出すことはなかった。
だっておっさんの独り飯なのに家でホワイトアスパラって、なんかやりすぎじゃない?
って思っていたから。

こんな時節柄なんで僕も極力ステイホームしているのだけど、
ちょっと用事があって出かけた渋谷で、昔から通っていた八百屋に足を運んでみた。
店頭には、今年も当たり前の顔してホワイトアスパラたちが並んでいた。
5月も半ばになって産地はすでに北海道まで北上している。
手に取るとけっこうな太さと重量感、そして安い。
お客さんに出すなら即買いレベルのものだけど、なにせおっさんの独り飯
んー、これは悩む……。
店内をぐるっとひやかして、またさっきのホワイトアスパラのもとに。
気付いたらどれが一番美味しそうか品定めしていた。

ホワイトアスパラは、穂先の下辺りからしっかり皮を剥いて、その皮とともに茹でる。
皮から出汁が出るからだそうだ。
そしてできるだけ柔らかく、くったりめに火を通す。

ソースには卵を使ったものが定石だ。
フレンチの王道だと卵黄とバターを乳化させたオランデーズソースが一番だけど、手間もかかるし難易度は高い。
僕の店では自家製をマヨネーズを添えて出していたが、この日はポーチドエッグを作ってみた。
「おっさんの独り飯」とか言いつつ、ここまできたらそれっぽいひと皿にしちゃおう。ホワイトアスパラの優しい味を壊してしまうから黒胡椒はひかず、そのかわりちょっといいオリーブオイルを満遍なくかける。

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ほぼ3年ぶりのホワイトアスパラ、まずは穂先から……美味い!!!
頬張った瞬間ひとりで悶絶してしまった。
おれは3年ものあいだこの美味しさを遠ざけていたのか!

少し火を通し過ぎたポーチドエッグを潰して、ソースがわりに絡めてまたひと口。
あれ?鉄板の組み合わせなのになんかぶつかってるような。
アスパラの甘さ、みずみずしさ、そして奥に潜むかすかな苦み、それこそが魅力なのに、
卵が邪魔してるとまで感じてしまったのだ。
潰したポーチドエッグを皿から取り除いて、追いオリーブオイル。
うん、これで十分だ。むしろこれだけでいい。シンプルにアスパラの旨味を感じられる。
春の陽光のように温かく、なんともたおやかな味だ。

ホワイトアスパラとのマリアージュを考えるなら、その産地に近い白ワインを合わせておけば間違いない。
例えばフランス・ロワールのソーヴィニヨンブランだったり、イタリア・ヴェネトのソアーヴェクラシコ。ドイツの辛口リースリングだっていいだろう。

だけど僕はこの日、ワインへの2〜3000円の出費をケチってしまっていた。
ワインなんか開けた日には、ボトル半分じゃ済まない。もうちょっと飲んじゃおう、またもうちょっとだけ……とか考えながらグラスに注いで、ボトルの底にほんの少ししか残ってないのに気付いてようやく「コレ、明日に取っとこう」となるのがオチ。
なんでもない日の晩酌でそれは贅沢すぎる。
じゃあニューワールドの5〜600円の白ワインでもいいかな?とも思ったのだけど、
あの手の白ワインに独特な熟した蜜のような香りやトロピカル感がホワイトアスパラとは合わないと思い、却下。

考えあぐねた挙げ句、北海道産ホワイトアスパラだから、北海道産の原料を使ったビールでいこうと決めた。
今日のお供はサッポロビール富良野産の「ソラチエース」というホップを使用したというビールだ。

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正直この選択がまた失敗だった。
誤解のないよう書いておくと、僕の考えが浅はかだっただけでこのビール自体はとてもウマい。
プレミアムモルツやとれたてホップの一番搾りにも似た、特徴的なホップの香り高さが利いている。
だけどその香り高さこそがアスパラの香りや甘みとぶつかってしまい、ビールが勝ってしまうのだ。
(同じような理由で、僕は刺し身や寿司をつまむ時にプレミアムモルツは合わせたくない)


ビールはかたわらに置いといて、ストックしてある日本酒にチェンジしてしまった。
僕は、日本酒はどんなつまみにも合うと思っている。
よほど磨きに磨いてフルーツのような華やかな香りのする大吟醸でもない限り、
焼き物、揚げ物、煮物、刺し身、どんなつまみも抱きしめてくれる包容力がある。
まあそこには個人的な嗜好が大いに反映されているのだがw

結果これが正解だった。アスパラの香りや旨味を打ち消すことなく、すっと口の中におさまり、
ほどほどの余韻とともに消えていく。
じゃあ最初から日本酒にすればいいじゃないかって話だけど、飲み始めるとつい飲みすぎちゃうので、
糖質とか明日のこととか考えて毎日は飲まないようにしている、はずだった。

この日の酒は奥多摩澤乃井普通酒。もはや北海道とはなんのつながりもない。
それでも奥多摩の酒は北海道のホワイトアスパラを、しっかりと、そして優しく受け止めてくれる。
杯を重ね、気づけば四合瓶も空に。いつもの如く飲みすぎてしまった。
翌朝の陽の光がえらく目に沁みた。